U. ターボドライブ・バックスイング
第1部に記したタイガーの新しいアドレスの考察は、トッププレーヤーと専門家による観察と話し合いに基づいて導き出されたものである。では次に、ハンク・ヘイニーコーチのもとで習得したタイガーの新しいバックスイングを考察する。新しいバックスイングをより明確に理解するために、タイガーの以前のパワードロー・バックスイングを観察してみたい。
タイガーの以前のバックスイング
ブッチ・ハーモンの指導を受けていた頃のタイガーはバックスイングをスリークォーター(3/4)で終えてしまっており、フルターンをしていなかった。このコンパクトなスイングはアイアンで距離をコントロールするために役立っていた。但し、タイガーのタイミングが完全でないかぎり、この肩の浅い回転はドライバーショットに悪影響を及ぼしていた。タイガーのスイングはあまりにも短く、円曲線を描いていたため、ダウンスイングがどうしても速すぎる場合があった。練習熱心で知られるタイガーでさえ、小さな(短い)スイングは最終的に、特にドライバーショットでミスを誘発することになった。非常にコンパクトなバックスイングを採り入れると、回転の生み出す力が弱くなり、ダウンスイングへ切り返すタイミングが難しくなるため、クラブヘッドをボールにスクエアにまたしっかりとインパクトする再現性が低くなる。その結果、パワーと正確性が失われる。
皮肉なことではあるが、タイガーの以前の勝利のスイングでは非常に優れた点が大きな欠点となっていたことである。タイガーの以前の動作には大きな筋力と、極限までの柔軟性そして卓越したハンド・アイ・コーディネーション(視覚による判断と手の動きが一致すること)が求められた。タイガーはこれらすべての条件を具えている。タイガーの以前のスイングは「おじいさんの時計」のように複雑なメカニズムが内蔵されていたのである。正しく時を刻むには時計の一つ一つの部品が完全に同期して機能しなければならない。タイガーのテンポ、リズム、タイミングでしか実現できないスイングだった。なぜこのようなスイングを完成させたかといえば、シャロー(フラット)のスイング動作はアップライトの動作よりも優れているとするブッチ・ハーモンの理論に基づく。この種のバックスイングでは、ドライバーをより長い軌道に沿って移動させるため、ボールにスクエアに戻すのが一層難しくなるだけだ。
「ドライバーはフラットなプレーンでインパクトを迎えなければならない」とブッチは私に語っている。私とブッチは「勝つゴルフの4大要素」を共著した仲なのだ。
また、「フラットな角度でインパクトを振りぬくには、スイング全体が比較的フラットなプレーン上を、上下でなく体の回りをクラブが移動しなければならない」とも語っている。
タイガーはハーモンの助言を採り入れて、すばらしいゴルフを長年にわたり展開したが、しかし、バックスイングの初期の段階で目標線からかなりインサイドにクラブを引いて(腰を極端に大きく捻転させながら)、ダウンスイングで両腰を急激に回転させるという悪癖がゆっくりと確実に忍び込んでいった。こうして、スランプの間、プルフックとプッシュスライスを打つタイガーのプレーが増えていった。結論として、いかに回復力に優れたタイガーでさえも、新しいスイングを学ぶために、新しいコーチへの転換を迫られたのである。
タイガーの新しいバックスイング動作
タイガーの現在のバックスイングは大きなアップライトスイングであって、肩を力強く回転させる一方、腰の回転を抑えていることが特徴的である。バックスイングで腰の回転を抑えることによって、上半身と下半身の抵抗を作り出し、大きなトルクを生み出している。
体重移動が始まると、タイガーは右腰の回転を始動させている。オープンスタンスであるため右腰は以前ほどには大きく回転しない。したがってクラブは横ではなく縦に上っている。ハンク・ヘイニーのコーチングを受けるようになってから改善されたタイガーのスイングの特徴である。
両腕を後方へそして肩をあごの下まで一杯に回転させると、クラブはさらにアップライトに動く。クラブがトップへと近づいていくこの時点で、左肩のプレーンがクラブのプレーンと一致しているかぎり、スランプ時代に見せていたフライングエルボーへの心配は解消されている。自然にアップライトの軌道を描いているからである。
極端な時計方向への回転でなく、左肩が下に下がっており、バックスイングの初期に右手首をヒンジ(コック)し、平行にまたはややレイドオフ気味に十分なバックスイングを行なうことによって、右ひじは体から離れず、クラブをフラットでなくアップライトに振ることができる。
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V. ターボドライブ・ダウンスイング
以前のタイガーはプレーン角を極度に傾けてバックスイングを開始し、インパクトに向けてクラブが目標線のかなり内側から入るようにスイングを行なっていた。しかし、クラブが体でブロックされてしまう事態がしばしば起きていた。したがって、「つまる」ことを察知して腰を勢いよく回転させて自由な空間を作り出し、同時にクラブヘッドをスクエアにするため右前腕と右手を返すという反射的な動作が見られた。その結果、ひどいフックショットが生まれる。
これと反対に、時々ダウンスイングで右足を過度に押し出す動作が見られた。右足が地面から離れるのが早すぎる現象を含めたこの誤りはバランスをくずし、目標の遥か右へ押し出すショットとなる結果を招いていた。
タイガーの新しいダウンスイング
現在のタイガーは左肩、左腕、クラブを円形のプレーン上でスイングしており、右足が地面についている時間が長くなっている。この新しいダウンスイングの動作はバックスイングと比較するとややフラットではあるが、安定感が増し、より優れたダウンスイングを行なう時間を与え、以前よりもシンプルにまた安定したインパクトを迎え、力強く正確なドライバーショットを放つ確率が高くなっている。ここで、タイガーがどのような動きから、ダウンスイングを開始し、正確なターボドライブ・ティーショットを打っているかを詳しく見てみよう。
タイガーは腰を平行移動させることをきっかけとしてダウンスイングを開始し、そしてほとんど同時に、バックスイングで地面からわずかに上げた左かかとを着地させている。この二つの動きを同時に行なっている(ダブルトリガー)主な理由は、手、腕、クラブに下半身に追いつく時間を与えるためであり、これは極めて重要である。
トップに到達する瞬間に左腰を時計の逆回りに回転させるように教えている現在の多くのティーチングプロの意見に従うとすれば、体はクラブよりもはるかに前へ移動してしまうため、クラブフェースは開いてインパクトを迎え、ボールは右方向へ飛び出すことだろう。さらに、タイミングがとれず、体に動きがさえぎられるため右手と右腕を大きく使ってミスショットを防ごうとすることだろう。こうした緊急脱出的な手段をとると、クラブフェースを閉じてしまうことになり、フックを打ちやすくなるのが問題である。
ヘイニーの指導を仰ぐ以前に、タイガーはこれらの問題を経験していた。しかし、現在のタイガーはこれらの問題を克服している。ヘイニーがいくつかの簡単な指示を与えると、タイガーはボールに向かって立ち、すばらしいショットを連発しただろうか。皆さんのようにゴルフをよく理解している人は、セットアップ、バックスイングあるいはダウンスイングを少し変えるだけでも、それに慣れるには時間がかかることを知っている。タイガーが2005年に勝ち始めるまでゆっくりとした進歩を遂げたことについて、口うるさい批判者たちが何も言わなかったのはそのためなのだ。大切なことは、USGTFの資格を持つゴルフインストラクターである皆さんは、生徒に教えるとき忍耐の一文字を家まで持ち帰るようにしなければならない。
さて、タイガーの腰が平行に移動すると、体重は左足と脚に移動し始め、クラブはプレーンのラインと平行に落ちる(ラインの内側がベストであるとヘイニーは考えている。したがって弧はフラットになるのが理想的である)、タイガーは左腰を力強く左へ回転させる。これによってクラブヘッドのスピードは急激に上昇する。スイングのこの時点で、エネルギーは腕を伝って両手に達し、そして、シャフトに伝わっていく。タイガーのクラブスピードは秒速58mに達して、さらにしなりを帯びたシャフトはクラブフェースを正確にボールにヒットさせる。インパクト後、タイガーは右腰、ひざを時計回り逆方向に回転させて全身をリリースさせ、スイングを終了させる。タイガーは右サイドをぶつけることによって、全エネルギーをボールの後ろに集中させて、力強いフェードボールを打つ。タイガーは左手を止めるようにしてボールを打ち、決して流さないからそれができる。
生徒がタイガーのようにスイングすると、ボールは高く舞い上がり、高い放物線を描いて、目標のやや左を目指し、そしてフェアウェイのセンターに着地することだろう。
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W. タイガーのターボドライブ・テクニックを身につける
第1部から3部において、タイガーが力強く、コントロールされたフェードボールを打つ鍵となるアドレス、バックスイング、ダウンスイングを分析してきた。
最近のタイガーに最も大きな影響を与えているのはハンク・ヘイニーだが、ティーチングプロのルディー・デュラン、ジョン・アンセルモ、ブッチ・ハーモンがそれ以前にタイガーに教えた以下の3つのドリルは現在の彼のスイングを形成する上で大きく寄与している。これらの優れた3つのドリルは図解を必要としないほど非常にシンプルである。
デュランのバランスドリル
練習場のティーやコースレッスンでデュランはタイガーにショットさせると、ボールが転がって止まるまでフィニッシュの状態を維持させた。私は電話でデュランに尋ねたところ、このドリルはバランスの取れたスイングを体感し、それを繰り返させるために有効だと言う。このドリルを始める最も良い方法は、ショートアイアンから始めて、次にミドルアイアン、最後にドライバーで練習することである。各クラブをどのようなテンポでスイングするとバランスを失わないかを感じ取るため、スイングスピードをさまざまに変えてみることも同じように大切だ。
このドリルはタイガーがゲームを組み立てていく上で、特にドライバーショットに対して非常に大きな効果が見られた。足がふらつくほどスイングしないことをしっかりと教え、リズミカルにスイングして加速させることを強調するならば、このドリルはあなたの生徒にとっても効果があるに違いない。
アンセルモの親指と指のドリル
このドリルではクラブを使わない。手首が手前に折れて、スイングがフラットになるタイガーの問題を解決したのはこのドリルである。そしてヘイニーが現在教えているレッスンはこの延長線上にある。
アップライトにバックスイングして、トップで左手首をフラットに維持する(折り曲げない)ように教えることによって、皆さんの生徒もタイガーのように力強く、正確なショットを打てるのだ。
アドレスのポジションをとって、親指を上に向けて左腕を前方に伸ばす。右手のひらで左手の親指を握る。左腕を伸ばしたままゆっくりと飛球線後方に引く。限界まで達したら、そのポジションを10秒維持する。バックスイングがアップライトの軌道を描いていることに気づく。それが理想であり、その間左手首はフラットである。
ハーモンのスローモーションスイング・ドリル
タイガーに教えたこのドリルは、体とクラブの連続した動きをスムーズに行なうことを生徒に教えるのに役立つ。
75%の力でドライバーをスイングすることに全神経を集中させる。このドリルでは、スムーズなスイングを妨げる手や手首の小さな筋肉でなく、強制的に腰、腕、肩の大きな筋肉を使ってスイングさせることが大切だ。スイング動作をリズミカルに行なうために、流れるようなフットワークを意識させる。
スイング動作を意識せずに行なえるようになるまでこのドリルを続けさせる。生徒がこの動きをつかんだら、体とクラブの動きを支配するタイミングとリズムの要素が同期している(シンクロ)ことの確たる証となる。
最後に、ボールを打たせて、スイングスピードを上げていく。バランスを維持し、力強く、目標方向にボールが打てるようになれば、理想のテンポを体得したことになる。
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